RESEARCH

​​フォトトロピンを介した光応答

 植物は光合成を通じて太陽からの光エネルギーを化学エネルギーに変換し、地球上の生命活動の根幹を支えています。加えて、植物は光を光合成に必要なエネルギー源として利用するのみならず、「環境情報」として利用することで、自身の成長を最適化させています。 

 フォトトロピンは植物に特有な青色光受容体キナーゼで、光屈性、葉緑体光定位運動、気孔開口、葉の展開など、光合成機能の最適化に関わる多様な光応答を制御し、植物の成長を促進させます(Plant Cell 2005)。しかし、そのシグナル伝達の仕組みについては、フォトトロピンによりリン酸化される基質タンパク質の実体をはじめとして不明な点が多く残されています。

フォトトロピン

図1 フォトトロピンの構造と光応答。フォトトロピンはN末端側に光受容に関わる2つのLOVドメインを、C末端側にSer/Thrキナーゼドメインをもつ光受容体キナーゼである。青色光の受容によって活性化したフォトトロピンは、細胞内シグナル伝達を介して、多様な光応答を誘導する。これらの諸反応は、植物の光受容や二酸化炭素吸収を高め、光合成・成長を促進する。

青色光に応答した気孔開口の分子メカニズム

 私たちは植物における環境応答・シグナル伝達のモデルケースとして、青色光に応答した気孔開口のシグナル伝達機構の解明に取り組んでいます。これまでに、赤外線サーモグラフィという温度を可視化するカメラを用いて気孔開口を視覚的に検出する系を開発し、モデル植物シロイヌナズナを対象とした大規模変異体スクリーニングから、気孔開口の必須因子である新奇プロテインキナーゼを同定し、BLUS1と名付けました(Nature Commun 2013)。さらに孔辺細胞プロトプラストを用いたリン酸化プロテオーム解析から、BLUS1がフォトトロピンによって直接リン酸化制御を受けることを証明し、長らく不明であったフォトトロピンのリン酸化基質を初めて同定しました。フォトトロピンによるリン酸化を介したBLUS1の活性制御機構や(Plant Cell 2021)、BLUS1下流のシグナル伝達について研究が進んでいます(PNAS 2006)。

 さらに最近、私たちはフォトトロピンの第2のリン酸化基質CBCキナーゼを同定し、CBCは気孔閉鎖の鍵因子であるアニオンチャネルを不活性化することで気孔開口を促進することを明らかにしました(Nature Commun 2017)。これらの研究により、フォトトロピンは孔辺細胞内で多様な因子を同時に制御し精巧なシグナル伝達ネットワークを形成することで、応答を厳密且つ統合的に制御する新たなシグナル伝達モデルが見えてきました。

 現在、生化学、分子遺伝学、分子生物学、細胞生物学、植物生理学など、多角的なアプローチによりシグナル伝達に関わる新たな重要因子・メカニズムの解明を進めており、フォトトロピンが制御する「光シグナル伝達ネットワーク」の全貌を明らかにし、植物の巧妙な環境応答・シグナル伝達の仕組みを解き明かしたいと考えています。

 その他、葉内CO2濃度を始めとする光合成の活動変動(Nature Commun 2017; Plant Cell 2021)や、乾燥ストレスに応じて合成されるアブシシン酸、様々な生物・非生物ストレス下で生成する活性酸素種(PNAS 2019; Plant Cell Physiol 2022)、概日時計など、様々な外的・内的要因と青色光シグナル伝達とのクロストークについても研究を展開しており、植物が変動環境下において気孔開度を最適化させるメカニズムの解明を目指しています。

気孔開口

図2 (上段)青色光による気孔開口のシグナル伝達ネットワークモデル。(下段左)赤外線サーモグラフィを用いて青色光による気孔開口を視覚的に検出した熱画像。野生株では青色光に応じて気孔が開口するため葉温が低下するが、blus1変異体では気孔が開口せず葉温は低下しない。(下段右)リン酸化プロテオームでは細胞内のタンパク質のリン酸化修飾を網羅的に解析することができる。赤外線サーモグラフィを用いた変異体スクリーニングとリン酸化プロテオーム解析は、シグナル伝達ネットワーク研究の強力なツールとなっている。

Selected Publications:

  • Hosotani S, Yamauchi S, Kobayashi H, Fuji S, Koya S, Shimazaki K, Takemiya A (2021) A BLUS1 kinase signal and a decrease in intercellular CO2 concentration are necessary for stomatal opening in response to blue light. Plant Cell  33: 1813-1827.​

  • Yamauchi S, Mano S, Oikawa K, Hikino K, Teshima KM, Kimori Y, Nishimura M, Shimazaki K, Takemiya A (2019) Autophagy controls reactive oxygen species homeostasis in guard cells that is essential for stomatal opening. Proc Natl Acad Sci USA 116: 19187-19192.​

  • Hiyama A, Takemiya A, Munemasa S, Okuma E, Sugiyama N, Tada Y, Murata Y, Shimazaki K (2017) Blue light and CO2 signals converge to regulate light-induced stomatal opening. Nature Commun 8: 1284.

  • Takemiya A, Sugiyama N, Fujimoto H, Tsutsumi T, Yamauchi S, Hiyama A, Tada Y, Christie JM, Shimazaki K (2013) Phosphorylation of BLUS1 kinase by phototropins is a primary step in stomatal opening. Nature Commun 4: 2094.

  • Takemiya A, Kinoshita T, Asanuma M, Shimazaki K (2006) Protein phosphatase 1 positively regulates stomatal opening in response to blue light in Vicia fabaProc Natl Acad Sci USA 103: 13549-13554.

  • Takemiya A, Inoue S, Doi M, Kinoshita T, Shimazaki K (2005) Phototropins promote plant growth in response to blue light in low light environments. Plant Cell 17: 1120-1127.